大峰早駆 3DAYS SOLO ON SIGHT TRY ⑤ day3 望郷



南奥駆のトレイルでは、誰一人会わなかった。
3日目。


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行仙ノ宿〜笠捨山〜地蔵岳〜玉置山〜玉置神社〜大森山〜五大尊岳〜大黒天神岳〜七越峰〜熊野川〜熊野本宮


本当に美しい夜明けだった。
それが、もっともタフな一日の始まりでもあった。


一番長い日。
そこには、延々と大小のピーク越えが続いていた。
再び、梅雨が明けたかのような炎天に、熱中症の不安も浮上してきた。
玉置山を過ぎても、修験の道は、最後まで隙を見せなかった。
小ピークを越えたかと思うと、壁の様に聳え立つ大ピークが待っていた。
その繰り返しが、永遠に続くと思われ、何度も泣きが入った。
しかし、行くしかない所まで来てしまっている。
足底が痛い、いや、気のせいだ。
膝が痛い、いや、気のせいだ。
肩が痛い、いや、気のせいだ。
頭がふらつく。
やばいのか。
物理的にリタイヤは無い。
自分で帰るしかなかった。
雨が降り始めた。
救いの雨か。
高温の身体を一気に冷やしてくれた。
ピーク越えは、最後の最後まで続いたが、少しだけ楽になった。

たどり着いた先に誰が待ってるわけでもなかった。
完走証が有るわけでもなかった。
3日でここを抜けた事は早いとは思わない。

ただ有るのは、熊野川の冷たい流れと、応援してくれた友達への感謝と、やり切った誇りと。

20年以上前から思い。

熱いものが込み上げた。

雨が止みかけていた。















熊野川から上がって、とぼとぼと本宮の方へ歩いていく。
16時過ぎの田辺行き最終バスに乗るのは難しく、ここ熊野本宮に一泊し、翌日の午前中だけ仕事をサボって昼までに帰宅するしかないという覚悟であったが、バス停に着いて良く調べてみると17:16 が有り、最終で家まで帰れることが分かった。
約1時間あるので、取りあえず公衆浴場をさがして、風呂に入ってさっぱりした。


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そのあと、本宮にお参りもしたかったが、そこまでは時間が無く、帰りの食料等を調達してバスに乗った。
ガラガラのバスが出発すると、やっと落ち着いてきて、腹が減ったのでおにぎりを食べてビールを飲んでいたら、いつの間にか眠ってしまっていた――――――







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夜明けが始まりではなく、既にその一時間以上前から行動を開始している。

午前2時半起床。
眠りに着いたのが前夜の23時半頃である。
3時間ほどの仮眠を取り、出発準備と朝食。
4時前に行仙の宿を後にする。

約1時間で、笠捨山山頂。
ここで、夜明けを迎えた。
予期せぬ美しい夜明けだった、午前5時。
長く、苦しい一日の夜明け。




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笠捨山からは一気に下り、槍ヶ岳を巻きながら、細かく悪いアップダウンを繰り返しながら、地蔵岳に40分ほどで達した。
奥駆で二つ目の『地蔵岳』である。




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地蔵岳から、過ぎて来た奥駆の山々を振り返る。
遥か北へ幾重にも連なり、厳しくも美しい修験の道がそこに有った。


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地蔵岳を越えると、ますます道は厳しくなる。
鎖場や梯子も有るアップダウンが、槍ヶ岳から東屋岳までの直線距離で1㎞ほどの区間に連続する。
無理をしてここを夜間通過するのは、位置的にもかなり疲労が蓄積している場所なので、非常に危険を伴い、やはり行仙ノ宿など、手前での宿泊が妥当であったようだ。
悪場を通過し、しばらく落ち着いた1115mピーク付近では、トレイルの真ん中に大きな熊の糞が有った。
牛糞並みの物だったので、こんな山中に、こんな物をする動物は、熊に間違いないと思う。
熊鈴を、よく鳴るようにウエストベルトに付け直して、声を出しながらしばらく進んだ。

この悪場を通過した辺りから、二日分の溜まった疲労が出て来たのか、昨日はどうもなかった足底が再び痛み始め、更に膝も痛くなってきた。
肩のザック擦れもきつくなってきて、満身創痍の様相が、玉置山までに徐々に濃くなってきた。






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それでも、香精山を過ぎるとトレイルも落ち着いてきて、緩やかな下り基調で、気持ちよく走れる場所も増えてきた。
貝吹金剛からは標高もかなり下がり、ガスが巻いたり晴れたりしている間に、標高1000mを割るようになってきた。
樹林の間から、ちらちらと舗装路も見下ろせるようになり、人里の気配も感じられる。
しかし、標高が下がるのと、太陽が高くなるのとに合わせて、気温もかなり上がってきた。
一時600m台まで標高を下げるが、登り返して如意宝珠岳736m。
蜘蛛の口でまた600m台に下がり、それから稚児の森703m。
そこを下ると、いったん車道に出る。
地図で見ると京ノ谷大谷林道とあり、玉置山山頂へと続く車道である。
ここから玉置山1076mまで、車道とシングルトラックとを交えながら登っていくことになる。







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玉置神社まで、約4.5km 午前8時。
ゴールまでは20km。
かなり気温が上がってきた。
車道では、なるべく日陰を選んで進む。
たいした登りではないが、気温の上昇と共に、既に足の裏が悲鳴を上げ始めた。
それでも玉置山まで行けば、あとは下り基調という安心感からか、そこそこのペースで進めていた。 
花折塚を過ぎた辺りから、重機の音が近づいてきた。
久しぶりの極めて人工的な騒音で、何故か少しホッとした気分になる。
車道に出てしばらく行くと、玉置山展望台付近にて林業の重機が、原木の積み込み作業をしていた。







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車道をしばらく登ると、世界遺産の記念碑が有った。
そこから、車道をさらに登る。
カツエ坂というらしい。
やがて、トレイルに入り5分もしないうちに、山頂に飛び出した。






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9:18、玉置山1076m山頂到着。




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天候が良すぎて、暑くてふらふらの玉置山山頂にて







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山頂から少し降りたところに、玉置神社がある。
ここで、大休止。
しっかりエネルギー補給と、水分を摂って、身体を休める。
あちこちが悲鳴を上げ始めているので、念入りにストレッチも行う。

数人の観光客も上がってきた。
登山者以外の一般客を見ると、もう山旅も終わりか、と言う風に思えてくる。
さあ、もう一息だ。
社務所で、奥駆道本宮方面への降りる道を確認して出発した。







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玉置神社から玉置辻までは、快適な杉林の下りが続く。




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玉置辻で車道を横切り、しばらく水平なダブルトラックのトレイルを進むと、いつの間にかシングルトラックの登りになっていた。
ここを登れば1008mピークなのだが、大森山と勘違いしていたため、次に現れた、樹間の向こうに黒く壁のようにそびえ立つ、本当の大森山が見えたとき、気持ちが折れそうになった。
それでも、進まないと帰ることは出来ない所まで来ている。
実際登りになるとガレていて足場も悪く、非常に長く感じられ辛かったが、何も考えずただ淡々とペースを刻んで登りをこなしている自分がいた。
玉置山1076mから、一旦730mぐらいまで標高を下げ、そこからまた大森山1078mまで登り返したことになる。
昨日、禅師の森付近ですれ違った登山者の言っていた、「玉置山から次の大森山への登り返しはキツイ」と言っていた言葉が思い出された。







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暑さのため、水の消費も早くなってきた。
さらに、やっと大森山を越えたと思ったら、すぐに大森山三角点のピーク1044mへの登り返し。
地図を広げ、改めてこれからの道程を確認してみる。
五大尊岳、大黒天神岳などの縦走路上の主な山頂の他に、大小無名のピークを数えると最低7回の登り返しが有るようだ。








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暑さとあちこちの痛みに耐えながら、半ば朦朧とした意識の中でも、淡々とアップダウンを繰り返す。
ここにきて、登りよりもむしろ下りの方が辛く感じる。
一歩踏み下ろす度にどこかが痛む。

大黒天神岳をしばらく下った辺りで、道が大きく折り返し北へ下るようになり、また折り返して尾根筋をかなり外れ左手の谷へ下りはじめたので、ロストの不安がよぎった。
正面眼下の谷の久しぶり見た人里の集落へ降りてゆくのか。
まあそれでもいいか。
いや、ここまで来て奥駆を踏破出来ないのは一番つらい。
冷静に考えると、地図上にも、実際にも、明らかにこの付近には分岐など無かった。
暑さと疲労で判断力も低下しているようだ。
やがて再び道は尾根筋に戻り、かなり標高を下げてきた。
更に暑さが増してきたようだ。







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山在峠手前、ガーミンデバイス上100kmを越えた。
どこまで続くのかこの道は?
今日中にゴールできるのか?
最終バスに間に合うのか?







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一気に開けた場所に出た。
熊野川と人里が近い。
もうすぐなのか?

しばらく車道に出た。
山在峠。
そこを横切り再びトレイルの登り。
もう、車道を下ろうか...
喉も渇き、暑さにも限界が来た。
どうする...
そんな自答をしつつ、登りを進む。
すぐに植林帯の緩やかなトレイルになった。
コンディションが良ければ、走って気持ちの良いトレイルであろう。

やがて風が出たのか、周囲がざわついてきた。
暑くなった体に冷たいものが当たり始めた。






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雨が....
瞬く間に土砂降りになったが、林の中なのでレインジャケットを着る余裕が有った。
雷鳴は聞こえない。
救いの雨。
高温の身体と空気を一気に冷やしてくれた。






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少し楽になったので、ジョグで先を急ぐ。




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ゆるやかな登りを抜けると吹越山325m。
そこから一旦大きく下り、再び車道を横切る。
吹越宿跡、吹越権現がある。
そこからまた100m近く登る。
351mのピークを過ぎると、緩やかなアップダウンの稜線を行く。






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雨脚が弱まってきて、少しガスが巻いてきた。
吹越峠はまだか。

ふと、林の先が明るく開けているようだ。






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芝生の広場に出た。
展望台になっている。
いつの間にか、吹越峠は過ぎていたようだ。

雲が動き、眼下に本宮の街並みが見えてきた。







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雨は小降りになり、遥か山の向こうだが、少しだけ明るくなっていた。
ついにここまで。
ここからもう少し下って、あの川の流れを渡るだけだ。
さあ、帰ろう。



少し下ると車道に出た。
そこを少し行くと広場が有り、少し迷ったが、その奥から七越峰を越えて奥駆道のエピローグへと続く。

後は熊野川へ下るだけだと思い、七越峰を越えると一気にスパートをかけた。
そこから先はあまりよく覚えてないが、思ったよりも長く、最後にダメ押しのピーク(156m)を越えたのと、途中シングルトラックの真ん中でとぐろを巻いていたマムシを、危うく踏みそうになって飛び越えた記憶だけある。

最後は樹間の下り。
川の流れが聞こえてくる。
山旅の終わりはいつもそうだったような気がする。

木立の間に川面が見えた。
徐々に近づいてくる。
駆け降りる。
もう少し。

そして...






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抜けた。
川原へ降り立つ。
熊野川。
流れの中に踏み出す。
大峰奥駆道を終えるために。


中ほどで立ち止まる。
熊野川の冷たい流れ。
過ぎてきた山々の方向を見上げる。
雨が止みかけていた。



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by hoshigarasu7 | 2014-10-02 17:59 | trans mt. running | Comments(0)